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初診日・特殊事例

審査請求

関節リウマチ

当職が補佐人として初めて挑んだ障害年金訴訟の事案のご紹介です。

事例 女性・56歳(申請時点)
申請:平成26年
結果:障害厚生年金却下(事後重症) ※その後別請求で障害基礎年金2級
審査請求:棄却
再審査請求:棄却
一審:敗訴
二審:敗訴

平成10年に、突き指をきっかけとして、A院受診。その際撮ったレントゲンをみた医師から突き指とは別にリウマチの可能性を指摘される。その後、しばらくは際立った症状がなかったため受診はしていなかったが、平成18年頃から悪化し、B院受診し、リウマチと診断される。その後リウマチ専門のC院を現在も受診。
平成10年のA院受診時が初診だとすれば厚生年金となりますが、平成18年のB院受診時が初診だとすれば基礎年金となり、初診がいずれであるのかというのが争点となった。

経過その1 ご本人での裁定請求

平成25年秋頃に経済的理由から障害年金の申請を思い立ち、まずは申請者が自分だけで裁定請求を行いました。

まず、ご自身で年金事務所へ行って、初診日を確定してその病院で証明をもらうことという説明を受ける。一番初めのことを振り返るために、当時書いていたスケジュール手帳を確認すると、平成10年某日にA病院に行って、レントゲンを撮ったところ、関節が溶けているみたいになっているのでリウマチかもしれないと医師から言われた旨の記載が、月間スケジュールページと週間スケジュールページにあった。また、何枚か発行されていたA病院の診察券の内の一枚はその平成10年某日の日付が書かれてあったためその日が初診日だと特定した。

そして、A病院へ赴くも、平成10年当時のカルテはもう保管されていないとのことだった。ただ、申請者はA病院の近くに住んでおり、かつては短期でA病院の事務として働いていたこともある等同院院長とは旧知の仲であったため、カルテに基づくものではないが、申請者の申し立てに基づくものとして平成10年某日に受診し、リウマチと診断した旨の証明書を発行してもらう。

その証明をもって、裁定請求するも、初診日が平成10年某日だとは認められないとして平成26年9月に却下の通知が届く。

経過その2 別の社労士による審査請求

却下処分を受けて、当事務所ではない別の社労士へ審査請求を依頼する。

審査請求には、当該スケジュール手帳のうちの月間スケジュールページの部分のコピーを添付した。また、再度A病院へ赴き、院長から意見書を作成してもらう。

平成26年11月に、それらを添付して審査請求に及んだが結果は同様に棄却。

経過その3 当事務所による再審査請求

ここで、当事務所へご依頼の相談があり、それまでのお話を聞いた上で受任しました。

この段階では、カルテがない中で、初診日を証するものとして、スケジュール手帳や診察券や医師の意見書など比較的しっかりしたエビデンスがあると思いましたので、受任しました。

全てが終わった今思うのは、やはりうちに依頼するまでの間で依頼者さん側でちぐはぐな部分が多くあって、結局はそれが覆しきれないほど大きなものだったんだなあ、ということです。(後述)

ただ、この段階で当職が思ったのは、審査請求決定書を読んでみても、特に手帳についてはコピーにせよ提出しているのに何ら言及がなく、はっきりどういう理由で棄却なのかはわからないなあということでした。

気になったのはエビデンスの中でも最も具体的な記載があって重要なものと思われるスケジュール手帳の原本は保険者側に認知されていないと思われたので、原本ごと提出しました。この意図については後述しますが、やはりこの点がポイントでした。

そうして、平成27年6月に再審査請求に及びましたが、丁度その裁決が出るまでの間の平成27年10月に『障害年金の初診日を明らかにすることができる書類を添えることができない場合の取扱いについて』との通知が厚労省より出されました。

この通知はタイトルのとおりで、医療機関は医師法上カルテの5年の保存義務がありますが、逆に言うと5年過ぎたら廃棄していいよと法律では決められているわけで、特に本件のリウマチなどのような発病してから緩やかに症状が進行していく病気の場合だと、いざ申請しようとなったら初診の病院でカルテが廃棄されていて初診がいつかということが証明できないようなケースの救済を図るものです。

そのうちの一つに、

初診日頃に請求者が受診した医療機関の担当医師、看護師その他の医療従事者(以下単に「医療従事者」という。)による第三者証明(初診の医療機関が廃院等により医療機関による医証が得られない場合など)については、初診日頃の請求者による医療機関の受診状況を直接的に見て認識していることから、医証と同等の資料として、請求者申立ての初診日について参考となる他の資料がなくとも、当該第三者証明のみで初診日を認めることができることとする。


とされており、本件の場合、上述の審査請求時に取得したA病院院長の意見書がそれにあたるものであるので、それも踏まえて平成10年某日を初診日と認定するべきではないかと主張しました。


しかし、平成28年2月に再審査請求も棄却となりました。ここまで行きましたが、それでもスケジュール手帳については、何ら言及がなく、また、追加で主張したA病院院長の意見書についてもスルーでありました。


なお、この再審査請求と並行して、予備的にという意味で、初診をB病院初診であるとして、障害基礎年金を申請していましたが、こちらの方は2級で認定がなされました。

経過その4 第一審

結果云々というのもありますが、よくあることなのですけれども、不服申し立てを行ってこちらが出している書類について何ら言及がなく棄却で返ってくることがあります。こういう人を小バカにしたような対応は審査官審査会ともに改めてほしいものだと思います。これは感情論ということだけではなく、結局何が争点であり問題点であるのかということがわからねば、処分の納得性もないわけですし、さらに争おうにもポイントが絞れないので。

それで、依頼者さんには、これから6か月以内に取消訴訟を行うことが出来ます。しなくても一応B院初診とする障害基礎年金は受給できたのですから、訴訟まではしないという選択肢ももちろんありますがどうされますか、とお尋ねしましたところ、考えたいとのことでした。

実は、直近の社労士法改正で、社労士は法廷において弁護士とともに補佐人となることができるという制度改正が行われまして、そこで私は、ある同業者から紹介された弁護士さんと会って、お話ししました。



訴訟に関するイメージ

訴訟はイメージしていたよりかは敷居が低いと思いました。

・裁判所に何度も足を運ばねばならないというイメージ:当職と弁護士さんは確かに何度も運びましたが、本人さんは結局1回だけでした。

・ドラマのような喧々諤々のイメージ:基本は書面陳述ですので、当事者が猛り立って「裁判長!異議ありっ!」と叫ぶとかそういうことはありません。

・費用が掛かる:当職の保佐人業務は引き続き同条件でした。弁護士さんへの着手金は、状況にもよるのでしょうが、思ったほどではありませんでした。また、場合によっては法テラスの利用も可能ですが、本件の依頼者さんは条件を満たさず使えませんでした。



争点

こちらからの主張は主には、A院で当時のカルテは保管されていないものの、
①診察券
②当時つけていた手帳
③A院院長からの意見書
などにより、初診日の確定は可能であり、更に厚労省による通知の内容からするとこれらで認定が可能ではないかという点を主張しました。

これに対し被告(国)からの反論があり、主戦場となったところとしましては、
①手帳の信憑性に対する疑義
②リウマチという病気の特性に照らして、H10年に発病していたというのはおかしい
という点でした。


手帳の信憑性についての疑義
手帳の信憑性というのは、一つは、上記の流れでいうと、最初は本人が裁定請求を行った際には手帳のコピーすら出しておらず、次に審査請求で別の社労士が代理で入った後にコピー1枚だけ出し、そしてうちで再審査請求にタッチしてから初めて原本そのものが出されていると。つまりこういう証拠を小出しにしてくるというのは怪しいぞという反論でした。

何だか、うちが関与し始めてから原本を出したので、その手帳を後からうちが主導ででっち上げたかのような反論だったので心外だったのですが当然そのようなことをするはずはありません。裁判ともなるとそういうことまで言われるもんなんだなぁと感じました。

そこで、まず、本人になぜ最初の裁定請求の段階で何も出さなかったのか聞くと、結局手帳とは私個人が書いているものなので、そこには証拠能力はないと思ったので当初出さなかった、とのことでした。
また、別の社労士が審査請求の段階でコピー1枚しか出していない理由もよくわからずで、結局この点必ずしも合理的な反論がこちらから出来ずでした。

その結果相手方からず~~~~~っとネチネチネチネチその点を追及されました。

提出過程が不自然だというのは客観的合理的に考えればそうなのでしょうけれど、けれど、正直言って一般の人はそこまで考えながらやっているわけではないので、こういう落とし穴にはまってしまうということなのだなと勉強になりました。

しかしやはり残念なのは、平成10年某日が初診であるという主張の根拠は手帳の記載であるわけですから、根拠となっている情報は最初から惜しみなく提示すべきだったと思います。
この点は全てが終わった今思うと悔やまれる点ですが、うちで最初から受けていたら最初から出していただろうと思います。


信憑性の問題としてはもう一つ、手帳の該当部分の文字だけなんか変だ、という趣旨の反論もされました。
何というか、この点も細かいところをネチネチやられた部分ですが、しかし日記的な物というのは毎日書くものですけれど、毎日同じ筆圧と同じペンで同じ分量だけ書くとは限らないわけで、これも言いがかり的な主張だとは感じました。
ただ、これが相手方からすれば訴訟のテクニックの部分なのでしょうけれども、証拠と出されたもののあら捜しをしていくという。


経過その5 第二審

上記のほか、論点は多岐に及びましたが、地裁での判決は平成30年棄却という結論になりました。
また、更に高裁での控訴審にも至りました。類似の判例があるのですが、それとの詳細な比較を試みましたがやはり受け入れられずでした。

私としては判決の内容には納得のいかない点が多々あるのですが、やはり初動が肝心であって、最初の裁定請求の段階で無難に認定のレールに乗せることは出来ていた案件だったんじゃないかとは思いますが、そのレールから外れてしまったが故にここまでこじれてしまったんじゃないかなという理解をして自分を納得させることにしました。

これから請求を考えておられる方にとっては、難しい選択かもしれませんが、難しい申請についてはやはり最初から社労士に依頼されるのがベストだろうとやはり思います。

裁判については残念な結果でしたが、一緒に仕事をさせていただいた弁護士さんの仕事ぶりを見ながら、今後の社労士業務に携わるにあたってもさらに力が付いたという実感があります。これからも機会があれば補佐人として積極的に関わりたいと思いました。

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